パーキンソンの法則 (Parkinson's Law) とは、仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張するという法則です。2 時間で終わるはずの作業でも、1 日分の時間を確保してしまうと、なぜか 1 日いっぱいまで作業が続いてしまう、という経験がある方は多いのではないでしょうか。
締め切りまで余裕があると感じると、人はペースを落としたり、着手を先延ばしにしたりする傾向があります。結果として作業時間は当初の見積もりよりも長くなり、生産性が下がってしまいます。この、時間があるだけ仕事が膨張するという性質が、いわゆる第一法則 (第一の法則) にあたります。
パーキンソン自身が紹介した有名な例え話に、1 枚の郵便はがきを送ることだけがその日の仕事だという女性のエピソードがあります。彼女は、はがきを探すのに 1 時間、老眼鏡を探すのに 30 分、はがきを書くのに 90 分というように、1 日をかけてその作業を終わらせます。極端な例のように思えますが、規模の大小はあれ、多くの人が似たような経験をしたことがあるのではないでしょうか。
パーキンソンの法則を提唱したのは、イギリスの海軍史家シリル・ノースコート・パーキンソンです。1955 年、パーキンソンは経済誌「The Economist」に寄稿した風刺エッセイの中でこの法則を紹介し、のちに書籍『パーキンソンの法則 (Parkinson's Law: The Pursuit of Progress) 』としてまとめました。
パーキンソンがこの法則にたどり着いたきっかけは、イギリスの行政組織、とりわけ海軍省などの官僚組織を観察したことでした。彼は、扱う艦船の数や植民地の数が減少しているにもかかわらず、役人の数はむしろ増え続けているという矛盾に着目します。仕事の絶対量が減っても、組織はそれを埋め合わせるように新しい業務や手続きを生み出し、結果として役人の数だけが膨張し続けていたのです。この観察から、パーキンソンは仕事の量と時間、そして組織の規模との関係を法則としてまとめ上げました。
パーキンソンの法則には、あまり知られていない第二法則 (第二の法則) も存在します。それが、支出の額は、収入の額に達するまで膨張するという法則です。
これは個人の家計にも組織の予算財源にも当てはまります。昇給などで収入が増えたにもかかわらず、気づけば支出の額も同じだけ増えていて、手元に残る余裕が変わらない、という経験は珍しくありません。企業においても、予算財源に余裕があると、その分だけ経費が積み上がりやすくなります。第一法則が時間とリソースの関係を説明するのに対し、第二法則はお金というリソースについて同じ構造を説明していると言えるでしょう。
しょうか。ある研究によると、人はタスクを与えられたとき、実際にどれだけの時間が必要かではなく、どれだけの時間が使えるかを基準に見積もる傾向があるといいます。この思考のクセが、時間の浪費と非効率な仕事のやり方を生み出す原因になっているのです。
こうした傾向の背景には、いくつかの心理的な要因があります。
時間を使い切らなければならないという義務感から、本来なら短時間で終わる作業にも時間をかけてしまう
締め切りまでの余裕があるほど緊急性を感じにくくなり、不要な修正や完璧主義に作業時間を費やしてしまう
十分な時間があると分かっていると、着手そのものを先延ばしにしてしまう
こうした傾向は、限られたリソース配分するかという意識が薄れることで強まります。逆に言えば、リソースと時間の関係を意識するだけでも、生産性は変わってきます。
新規クライアント向けの提案資料を 1 か月かけて準備するケースを考えてみましょう。締め切りまで時間があるからと後回しにした結果、締め切り直前に慌てて仕上げることになったり、逆に 1 か月間ずっと資料に手を加え続け、不要な情報まで盛り込んでしまったりします。いずれも、作業が与えられた時間いっぱいまで膨張した状態です。
対策としては、チームで必要な作業時間を現実的に見積もり、恣意的な締め切りではなく、実際に必要な時間を基準にスケジュールを組むことが有効です。
デザイナーがルックブックを 2 週間で仕上げるケースを考えてみましょう。クリエイティブな仕事は完璧を求めるあまり、いつまでも「まだ手を加えられる」と感じてしまいがちです。締め切りがあることは分かっていても、プロジェクトに没頭するあまり、結局は与えられた時間いっぱいまで作業を続けてしまいます。
対策としては、制作の初期段階からクライアントを巻き込み、不要な修正に費やす時間を減らすことが挙げられます。マネージャーやクライアントとの定期的な確認ポイントを設けることで、どこまで進んでいるか、どこで作業を止めるべきかのフィードバックを得られます。
多くの企業は、週 40 時間労働という枠組みで働いています。この枠組みは、どんな職種であっても仕事を終えるのに同じだけの時間が必要だという前提に基づいています。
しかし、マーケティング職と医療職が本当に同じように 1 日 8 時間を必要とするでしょうか。答えはノーです。パーキンソンの法則は私たちの身の回りのあらゆる場所で働いており、週 40 時間をフルに使う人もいれば、タイムマネジメントによってより短い時間でタスクを終わらせる人もいます。
対策としては、成果の 80% は原因の 20% から生まれるとするパレートの法則の考え方を取り入れることが挙げられます。時間の長さではなく、インパクトの大きい仕事に集中することで、生産性を高められます。
予算財源に余裕があるプロジェクトほど、費用対効果を意識しないまま支出が膨らみがちです。四半期ごとの予実管理を怠ると、当初の見積もりを大きく超えたコストが発生してしまうこともあります。定期的に予実管理を行い、費用対効果を数値で確認する仕組みを持つことが、支出の額の膨張を防ぐ鍵になります。
1 時間の会議を設定すると、本来 30 分で終わる議題でも 1 時間いっぱい使い切ってしまう、というのもパーキンソンの法則の典型例です。会議のデフォルト時間を 25 分や 45 分など短めに設定する、アジェンダを事前に共有する、議事録を残してタイムキーパーを置くといった工夫で、作業時間の膨張を防げます。
パーキンソンは、法則の中でもうひとつ興味深い現象を指摘しています。それが凡俗法則 (Law of Triviality) です。凡俗法則とは、原子力発電所の建設のような複雑で重要な議題は短時間で承認される一方、自転車置き場の色といった些細な議題に不釣り合いなほど長い議論の時間が割かれる、という現象を指します。
チームの会議で凡俗法則が起きていないか、議題の重要度と割り当てる作業時間のバランスを定期的に見直すことも、生産性向上につながります。
パーキンソンの法則を理解したうえで、意識的にリソースと時間を管理すれば、より少ない作業時間で生産性向上を実現できます。
対策 | 効果 |
戦略的に計画を立てる | 先延ばしを防ぎ、必要な作業時間を事前に把握できる |
締め切りを自分で設定する | 「使える時間」ではなく「必要な時間」に意識を向けられる |
タイムボクシングを試す | タスクごとに時間の上限を意図的に設ける |
ポモドーロテクニックを試す | 集中と休憩を繰り返し、生産性を最大化する |
会議時間を短縮する | 議論が不必要に膨張するのを防ぐ |
タスク管理ツールを活用する | 締め切りとリソースの状況を可視化し、進捗を追跡する |
事前に計画を立てておくと、先延ばしにしにくくなります。明確な計画があれば、時間の管理がしやすくなり、タスクにどれくらい時間がかかるかを正確に見積もれるようになります。
計画には、以下の項目を盛り込みましょう。
SMART な目標
タスクとアクションのリスト
完了までのタイムライン
必要なリソース
進捗を確認する具体的な日程
会社全体の短期・長期目標に向けた、より広い戦略的な計画を立てることもできます。これが、職場での生産性向上のモチベーションにつながることもあります。
パーキンソンの法則を克服するもっとも効果的な方法のひとつが、自分で締め切りを設定することです。「どれだけ時間があるか」ではなく「本当はどれだけ時間が必要か」を問い、それに基づいて締め切りを決めましょう。
タスクに実際に必要な時間を把握するには、まず以下を行います。
プロジェクトの要件を理解する: プロジェクトに何が求められているかを大まかに把握することで、必要な時間を見極められます。この段階では、プロジェクト内のすべてのサブタスクや作業のリストを作成します。
優先順位をつける: プロジェクトの要件がリストアップできたら、To-Do リストに優先順位をつけ、どのタスクがもっとも重要か、または複雑かを判断します。
誰を巻き込むか決める: プロジェクトの一部でチームメンバーの協力が必要な場合、誰を巻き込むべきかを見極めます。プロジェクトの初期段階でチームに声をかけておくことで、後の時間を節約できます。
時間の見積もりを行う: 誰が、何に、どの程度関わるのかが把握できたら、自分の仕事量と生産性のレベルに基づいて、現実的な時間の見積もりを行います。
タスクを短期目標として捉えましょう。早く終わらせるほど、他のことに使える時間が増えます。
タイムボクシングは、先延ばしと戦い、失われた生産性を取り戻し、重要なことに集中するのに役立つ生産的な仕事術です。
タイムボクシングとは、あるタスクを一定の時間枠内に終わらせるという目標を設定することです。着手する前にどれくらいの時間をかけるべきかを計画しておくことで、仕事により意図的に取り組めるようになります。個々のタスクのスケジュールを立てる、チームの体制を整える、会議をより効果的に管理するといった場面でも、タイムボクシングは活用できます。似たアプローチとして、特定の時間帯を特定のタスクやプロジェクトに割り当てるタイムブロッキングもあわせて活用すると効果的です。関連記事: タスクに優先順位を付けて、仕事時間を管理する方法
タイムボクシングと同様に、ポモドーロテクニックは、集中して作業するセッションと短い休憩をこまめに繰り返す方法です。25 分の作業セッションと 5 分の休憩を使うことで、集中力を最大化しつつ、精神的な疲労を軽減します。
ポモドーロテクニックで時間を管理する 5 つのステップは、以下の通りです。
GTD (Getting Things Done) の考え方と同じように、重要度順にタスクのリストを作成する
タイマーを 25 分にセットする
タイマーが鳴るまでタスクに取り組む
5 分間の休憩を取る
ポモドーロを 4 回終えたら、15 分から 30 分ほどの休憩を取る
会議は、パーキンソンの法則がはたらく典型例です。1 時間の会議を予定すると、議題自体は 30 分で終わるはずのものであっても、議論はたいてい 1 時間いっぱいまで続いてしまいます。
会議でパーキンソンの法則に対抗するには、以下のような工夫が有効です。
デフォルトの会議時間を短くする: 30 分ではなく 25 分、1 時間ではなく 45 分に設定する。
明確なアジェンダを作成する: 事前に共有しておくことで、参加者が準備をしたうえで臨め、議論が脱線しにくくなる。
タイムキーパーを決める: 時間を管理し、会議を前に進める役割を割り当てる。
早く終われるなら早めに終える: すべての議題が終わったら会議を終了する。チームは時間が戻ってくることを歓迎するはずです。
タスク管理ツールを使うことは、1 日のスケジュールを整理し、個人の締め切りを設定し、優先事項を管理するための十分な時間を確保するための優れた方法です。チームでの共同作業でも個人のプロジェクトでも、To-Do リストを作成し、プロジェクトを予定通りに進めることができます。勤怠管理やタイムシートの機能を組み合わせれば、チーム全体の作業時間やリソースの配分状況もあわせて可視化できます。
パーキンソンの法則を克服するには、継続的な改善を積み重ねることが欠かせません。目指すべきは、自分を働かせすぎることではなく、より効率的に働くことです。